〜美しいお姫様と不思議な猫の物語〜

猫の王子は、深いため息をつきました。
「わかりました。優しいお姫様。
せめてぼくはずっとあなたのそばにいて、あなたを助け、あなたのことを守りましょう」

 それからお姫様と猫の王子は、丘の上の家で暮らしました。
猫の王子はお姫様のために、木の実や魚をとってきました。
草の葉や木の皮をくわえてきました。
お姫様は、魚で料理を作り、木の実でジャムを作り、
木の皮を裂いてさらして編んで、服を作りました。

もちろんそれまでは働いたことのなかったお姫様です。
最初は失敗もしましたけれど、猫の王子がそばにいて励ましてくれたので、
お姫様はがんばることができました。そしてそれは楽しいことだったのです。

 お姫様は、ある日、猫の王子に、「薬草の種がほしい」とたのみました。
猫の王子は風のように森や野を駆けて、種を集めてきました。
お姫様は、今は日に焼けたうでで丘を耕すと、その種を植えました。
「ねえ猫の王子様。お城にいるころ、私の国では、
貧しいためにお薬を買えない人がたくさんいると聞いたことがあるの。
そんな人たちに、薬草をとどけることができたらどんなにいいかしら。
てつだってくださる?」
「もちろんです。お姫様」



 お姫様と猫の王子は、大事に薬草を育てました。
 そうして、薬草を干し、薬を作ると、猫の王子が街へ配りにいきました。
魔女が城をのっとって以来、貧しい人々の暮らしは、さらに苦しいものになっていました。
猫の王子は、窓越しにそういう人々の暮らしをみて、
せきこむ子どもや、としよりのいる家を見つけると、
窓辺に薬をおいてくるのでした。

そしてまた猫は、数日してまた同じ家に行き、
病んでいた人々が元気になっている様子を見ると、
お姫様にそのようすを話してあげるのでした。
ふたりは幸せそうにしている街の人々の話を、丘の上の家でなんどもくりかえし話してきいて、
あきるということがありませんでした。

 お姫様の顔は今もみにくい呪いの仮面におおわれたままですが、
猫の王子には、仮面の下の美しいほほえみが見えていました。
そうしてお姫様も、自分がそういう呪われた姿になっているということを、
一日のうちいくらかの時間は忘れることができるようになっていました。
丘の上の家で、友達と二人暮らしていられて、そうして自分のしていることが、ささやかでも、
街の人々を幸せにしている……それがわかっているお姫様には、
もうなにもほしいものはなかったのです。

 一方、街の人々は、窓辺にそっとおかれている薬をみるたびに、
「これはどんな天使が自分たちのことを見守ってくださっているのだろう」と、
喜びに心をふるわせて、天に頭を下げ、感謝していたのでした。

丘の上に人知れず住んでいるお姫様がしていることだと、街の人たちに
どうして気づくことができたでしょうか?

(第三話)

<つづき>