2001年1月読書マラソン30冊の記録
今年(2001年)、2月に、私は、2000年度に出版された児童書のうち、高学年グレードの本についてささやかながら論考した小論文を書きました。それはすでに、雑誌「日本児童文学」5.6月号に掲載されていますが、制限枚数がたしか9枚だったかの短さだったため、いくらささやかな論考といえど、かなり内容を削らなくてはならないことになってしまいました。
主として、酷評のたぐいを削ったのですが、気に入った本でもどうしても字数の関係で押し込めることができなかった本もあり、内心、忸怩たるものがあったのです。
内容にふれることができた本でも、本来思った感想をすべて書くだけのスペースもなく…。
思えば、年末から病に倒れていた猫のそばで、読むべき本のリストアップをしたのでした。
年が明けて、猫が死んだ直後から、図書館や書店をまわり友人知己を頼って、本を集め、およそ一ヶ月近くかかって、積み上げた本の山を崩していったのでした。
読書しながらつけていたメモをみるにつけ、日の目を見なかった感想文に、どうしても日の目を見せてやりたい親心が兆し、また「読みたいです」といってくださる方々も少なからずいらっしゃったので、ここにサイト上で、感想を書いたメモを公開することにしました。
本が並んでいる順番は、読んでいった順番で、他意はありません。
☆なお、30冊分の感想がここに載せられていますが、すでに雑誌を読んでくださった方はご存じのように、実際の小論文には、ここに感想を載せていない本も入っています。それらの本はつまり、一月になる以前に、村山が読んでいた本だった、ということです。
そちらの本たちについては、書き出すときりがないので、今回は割愛しました。
☆
☆歌うゆうれいがあらわれた 中尾明 岩崎書店
雑誌に連載されていたものの再録のせいか、内容や社会観が古い。連作短編集。
特に女性観に違和感がある。「30代独身で犬を愛する一人暮らしの自立した女性」が、「不幸で孤独な女性」の象徴としてでてくるあたり、読んでいて苦悩してしまうのだった。
主人公の少年少女も…いかにも古い…。
オカルト探偵団のような話だが、ミステリとしてもちょっと辛かった。小道具大道具、人間心理にリアリティがなくて。一作一作が短いのも、読んでいてあっさりしすぎてて辛い。
表紙と挿し絵も、ラフな絵というより、手を抜いて描いている絵のように見えてしまう。
同じ主人公のシリーズがいまもつづいているところをみると、子どもには人気なんだろうな。
大人の目にはシンプルに見える構成が、子どもにはほどよいのかもしれない。今度最新刊を読んでみようかなと思う。(追記。イラストも最新刊ではきれいになってたりするので)。
☆まりこinデジタランド 五味彬 旺文社
ゆずりはさとしのイラストとブックデザインがあか抜けている。
物語の進行といっしょに、パソコン&インターネットの知識が身につく構成。
よい意味で今風。ペットもフェレットだったり(笑)。なかなかスリリングでなおかつハートウォーミングなストーリー。作者の人生観や社会観、パソコンに対する想いが、おしつけがましくなく、さりげなく伝わってくるあたりも、読んでいて好感が持てた。
自分の力で、パソコンという新しいツールを使って世界とつきあっていこうとする少女の物語。
(追記。マジで、うちのHPに出入りする子どもたちに読ませたいです。参考書として)。
☆ムジナ探偵局・なぞの挑戦状 富安陽子 童心社
おかべりかの挿し絵がナイス! 語り口もナイス!
面白い導入部。ユーモアはちょっと大人っぽい。テレビの芸人さんのギャグみたいなのり。読みながら笑える児童書って、ひさしぶり。子どもの頃、山中恒や小林信彦の本を読んで笑っていたときの幸せな気持ちを思いだした。大人の文学としても違和感なさそう。
「一般の常識では解決のつかない奇々怪々な事件」が専門の「古本屋と兼業の街の小さな探偵局」という設定がいいなあ。ドライで読みやすいのもポイント高し。
☆のどか森の小さな天使ピコパ 澤田徳子 PHP
表紙デザインが地味。おまけに怖い。広瀬弦の絵は、かわいくも不気味なのが持ち味だけれど、これは不気味さがかっているというか…。
文章は、相変わらずの擬音と「!!」の多用が…。
「ウロコ」がとても好きだったので、期待して読んだ本。シルバニアファミリーのように、動物たちが仲良く暮らす「のどか森」が舞台。ある日、ライオン署長(主人公。当然ライオンである)のバラの庭に落ちてきたなぞの緑色の生物の子どもの正体は?という物語。
「緑色の生物」が、どうしてこういうシルバニアな世界に登場しなくてはならないのか、とてもなぞ。
でも、一番引っかかったのは、作者の内的必然性が感じられなかったということ。
「どうしても、私はこの物語を書きたいんだ」という想いが感じられなかった。
妙に、「母親の視点」が感じられて、ときどき息が詰まったのも、マイナス点だった。
森の雰囲気は良かったんだけどなあ。そこはかとないユーモアも。
☆満月を忘れるな 風野潮 朝日中学生ウィークリー(新聞連載)
面白い。昔のシンプルな小説を読んでいるような味わいがある。
風野潮という人は、後世に残る作家だと思っている。
挿し絵(おがわさとし)がかわいらしくて描き込まれた絵で、なおかつ新聞連載らしくていい。
☆夢の守り人 上橋菜穂子 偕成社
とても面白くて、キャラクターの一人一人がくっきりしているのに、なぜか登場人物の誰にも感情移入できない不思議な話。豪華な映画でも見ているようだった。この物語の中には、「私」はいない。うーん。うーん。すごく面白いのに、中に入れてもらえないので、欲求不満だった。
視点キャラクターの数が多すぎたのでは? 感情移入できないのはそのせいもあるかも。
ラスト、テーマを語っているところがあるが、なんだか理屈っぽくて、目が活字の上をすべってしまった。守り人シリーズ第一巻がでたとき、某社の編集さんが、「あの本、活劇がとても面白いですよね。テーマは面白くないんですが」といっていたのを思い出したりした。
(追記。個人的には、夢と花の取り合わせが、拙著「魔法少女マリリン3」と共通しているところがあるので、興味深かった。上橋さんとは生まれ年が同じなので、何か「夢と花」がでてくる同じ物語を読んで(漫画かも知れない)それが無意識のうちに元ねたになっているのではないかと思ったりもした。そうでなければ、集合的無意識の世界に突入である。人類共通の無意識の中に、夢と花(と死)は、結びついているものだという意識があるということになるなあ)。
☆生命の樹 江崎雪子 ポプラ社
本好きの友人が、「銀のほのおの国」との類似点が樹になるといっていたけれど、私はそうは思わなかった。むしろ、子どもの頃、「銀のほのおの国」を読んだとき、「これは違う。これはまがい物だ」と思ったのだが、そのときの気分を思い出した。きついことをいわせてもらうと、海外ファンタジーをお手本にして、頭でこしらえた作品という感じがする。
魔法の絨毯の中の世界を旅する子どもたちの物語である。
前半、リアルな主人公たちの生活描写の部分はいいのだが、後半、異世界に来てからががくっと物語の密度が落ちる。
同じ世界に、「キララ山」と「イーリス川」と「水晶瀑布」があっては困ってしまうのだ。
地名の雰囲気は、わりと大事なところなので。
やはり、ある程度以上年上の日本人作家に、異世界ファンタジーを描くのは無理なのだろうかとしみじみ思ってしまった。異世界を描いたファンタジーは多分、子どもの頃から海外ファンタジーの翻訳物を読んで育った世代ではないと、書けないのではないかと思う。なんていうか、ファンタジーの種というか、根っこが身のうちにある世代、昭和三十年代生まれ以降の作家が書くものが、安心して読めるような気がする。
この本、キャラクター(人間の)はくっきりとしていて、文章力もスゴイのなあ。
とにかく、「冒険」=「知らない土地をえんえんと苦労して旅すること」という定義をもっているファンタジーは、ちょっともう読みたくない気がする。冒険ファンタジーは=「やたら移動する物語」ではないのだ。
テーマはいいんだけどなあ。
「弱いことははずかしいことじゃない。(略)はずかしいのは、弱くたっていいとひらきなおって、一度も強くなろうと努力しないで、自分をあまやかすことだ!」
なんて、すごく、いいせりふなのに〜惜しいなあ。
☆竜馬にであった少年 いぶき彰吾 文研出版
小林葉子のイラストも素朴でほどほどに漫画っぽくて、いい感じ。
登校拒否している少年が、タイムスリップ。坂本龍馬の時代の京都へ。
読みやすい文体と映像的な表現。漫画の「るろうに剣心」が好きな子どもたちにもうけそうな話である。物語は、たまに、荒いなあと思うところもあるけれど、面白い。
現代のせまい社会(身の回りだけしか見えない社会)の中で、行き場を失った子供が、幕末の人々との出会いの中で立ち直って行く。
登校拒否について、主人公と坂本龍馬が語り合う(!)なんて、シーンまであるのである。
作者は1954年生まれ。
(追記。でも、竜馬はちょこっとしかでてこなかったりする(^^;))。
☆竜の谷の秘密 大庭桂 旺文社
カサハラテツローの挿し絵は、きれいな絵で、子どもが喜んで手に取りそうな透明感のある、ちょっとアニメっぽい絵である。表紙も魅力的(表紙絵でかなり得をしている)。
ストーリーは、起伏がなくて、つまらなかった。テーマがあまりにも前面に出過ぎていたせいかもしれない。どんなにいい思想でも、それに物語の肉と皮がついていなければ、読む側は辛いものだ。作家さんはきっといい人なのだろうと思ったけれど…。
☆さらば、猫の手 金治直美 岩崎書店
間違えて、中級向けの本を読んでしまった本。だけど、面白かった。
自動販売機で、願い事を叶えてくれる「ねこのて」を手に入れた少年の話。
猿の手だとホラーだけど、猫の手はかわいいのだった(笑)。
文章といい、小道具といい、構成力といい、ほめちぎりたい感じの作品だったが、作者さんは新人とはいえ、私よりか年上なので、あまりほめちゃ失礼に当たるのかも。
☆こちら地球防衛軍 さとうまきこ 講談社
駅の伝言板に書かれた「一週間後に世界はおわる」という意味の言葉。
それをみた子どもたちの心の揺らぎを書いた物語。
街の描写はいい感じだった。朝の街も、夜の街も、魅力的だった。
主人公が何もしていない。ただのカメラアイで、なのに、親友にすかれ、美少女にすかれる。
「よくある日本人作家の悪い作品のパターン」をまたみてしまった…。
他者からすかれる主人公には、それなりの魅力がほしいのだ。
それなりの、エピソードがほしいのだ。
ラストの夜明けのシーンには、一瞬くらりとするような感動があるけれど、他者とぶつかり合うことをしない、自分で状況を変えようとしない主人公には、疑問を感じる。
こういう少年が幸せになれるほど世の中は……甘いかも知れないが、物語世界は甘くなかろうと思う。
☆かくれ山の冒険 富安陽子 PHP
ちょっと気の弱い現代っ子の少年がある日迷い込んだ民話的世界での冒険。
とぼけていて、面白い。本人の描いた挿し絵も素敵。
読んでいて口のはしが笑ってしまうほのぼの感。
ただ、ドライな部分に、たまにウエットな部分がまじるのが(ラストとか)、私はちょっと違和感があった。
☆天のシーソー 安東みきえ 理論社
不思議な夢の世界。翻訳物の短編みたいな優雅さもある。
少し挿し絵に違和感があるかも。
現実の中に少しだけに地味だす幻想の世界。それは少女の瞳の中にしか存在しないものなのだが、世界のどこかには、たしかに存在しているものなのだ。
透明感のある世界。少女の理想主義やまっすぐな正義感が心地よい。
映像的、詩的で美しい。F.L.ブロックとちょっと通じるところがある。
(追記。なぜだか「これは私の物語だ」という感じがした)。
☆空へつづく神話 富安陽子 偕成社
タイトルがきれいで、広瀬弦の挿し絵も広がりがある。
記憶喪失の神様と出会った少女の物語。けっこうウエットな話なのだが、感動できないというか、感情移入できないというか…。
この少女にとって、「神」とはどういう存在なのか、いまいちよく伝わってこない。また「神」にとっての「人」の存在もどういうものなのか、いまいちもいまにもわかんないのである。
神と人とが想いを語り合う話なのだが、互いの結びつきの深さを語るエピソードがまるでないため、ラスト主人公が神に語る「大すき」という言葉に説得力がない。
☆白狐魔記・洛中の火 斉藤洋 偕成社
仙人の弟子となり、人間に化けることや、妖術を使うことができるようになった狐、白狐魔丸の物語、第三巻。
楠正成や足利尊氏など、歴史上の有名な武将がたくさんでてくるのが、なんだか快感。
架空のキャラクターも実際にいたキャラクターも、魅力的である。
このシリーズは、日本史をこのあと、どこまで下ってくるのか、すごく楽しみである。
☆バンビーノ 岡崎祥久 理論社
装丁がおしゃれだ。でも内容は、わけがわからなかった。これだけわけわかんない話もめずらしいかも。
呪いのせいで、小学生になった男の子の物語(たぶん)。
その子の語り口が思い切り「名探偵コナン」なのは、キッチュな雰囲気をだすための演出なのであろう(たぶん)。担任の先生が、「うさこ先生」なのは、「セーラームーン」なんだろう(たぶん)。
…なんか、ヘイヘイ俺っていけてるでしょう?なんていいつつ、すさまじく何かをはずしてるような作品のような気がするのは、私だけなんだろう(たぶん)。
ひこ田中先生はたしかほめてたし。
☆緊急入院! ズッコケ病院大事件 那須正幹 ポプラ社
初めて読んだズッコケシリーズだった。いままで挿し絵が苦手なので、敬遠していたのだ。
どうでもいいけど、キャラクターのプロフィールで、主人公たちの成績がかなり悪いのには驚いた。…すごすぎる(笑)。
この物語は、いきなり一流のスナイパーがでてくるので、ゴルゴ13かと思った。
安定していてさすがに大先生だった。つるつる読めてしまった。
さすがに文体は古いんだけど…。
☆ダヤンとジタン 池田あきこ ほるぷ出版
独特の雰囲気がある猫の絵が素敵。しゃべる猫やうさぎの住む異世界わちふぃーるどの物語。異世界に不思議にリアリティーがあるのは、作者が絵描きさんで、世界の隅々まで目に見えるように想像することになれているからだろう。
キャラクターがかわいい。文章も美しい。
☆なみだの琥珀のナゾ 及川和雄 岩崎書店
表紙の少女の絵が、はっと目を引く。地味な絵なのに…。
物語は、テレビの再会番組みたいで、いただけなかった。
主人公がただのカメラになってしまっている。物語をみているだけだ。主人公なしで成立してしまう物語というのは、失敗作だと思う。
この物語に限らず、少年少女が、祖父祖母の世代の話を聞いて、「まあ昔にそんなことが」と驚く物語というのは、もっと違った見せ方を考えた方がいいように思う。もっとダイナミックに、現代の少年少女と過去の人々のドラマを結びつけるテクニックがほしい。
☆HOTチョコレート 令丈ヒロ子 小峰書店
作者は1964年生まれ。
吸血鬼の親子と出会った、腕白少年の物語。軽妙で面白かった。
イラストもかわいかったなあ。
☆月夜野に 森下真理 国土社
装丁が美しい。広野多珂子の花の絵もよい。
太平洋戦争が日本の庶民にもたらした影響とそうして生まれた物語を、比較的、新しい資料を基に書いた本。
地の文がかなり古いが、ミステリー風の構成で読ませる本になっている。
図書館の片隅で、ひっそりと輝きを放つような本である。
主人公である放送部の生徒たちが「らしく」ないために、リアリティが薄くなっているのは残念だ。もっと放送部らしい日常生活がかけていれば…。
やはり、カメラになってしまっているのである。
しかし、心打たれる本である。
☆悲しすぎる夏 和田登 文溪堂
美しい文章の文学作品。さすが大家。キャリアのある作家にふさわしい本だと思った。
一枚の油絵のように重厚で、きれいだ。
はかないが強い人の生の尊さを訴える本。ラストで泣いてしまった…。
P270〜
「あなたがそのように自分を責めるとしても、あしたのことの方が重要なんじゃないかしら?」
「……」
「あした。あしたどう生きるかなのよ」
償いきれない罪を背負ったしまった主人公に、ある人物が投げかける言葉。
これは、上辺だけの想いではかけない、重たい言葉だと思った。
☆地の掟月のまなざし たつみや章 講談社
縄文時代の少年たちと神々の物語の第二巻。
一巻を未読の私は、まず、「登場人物紹介のページがほしい」と思った。
みんな名前がカタカナで、おぼえにくいもので…。
文章が雑だなあ。せりふも、現代のサラリーマンの会話みたい。
擬音の使い方が品がないのも、読んでいてひいてしまうところ。
「口からグエッと息が飛びだした」とか、
「ガブリッとかみついた」とか。
なんかそれに…「友情物語」というより、「少年愛」っぽくて、怪しい…。
主要なキャラクターがみんな、甘えっ子で泣き虫に読めてしまうのも、抵抗がある。
これは、この物語の世界観は、「大人がいない世界」だと思う。
(追記。大人がいない、というのは、たつみやさんのデビュー作を読んだときにも強く感じたことだった。もひとついうと、主人公たちと違う視点で世界を見られるキャラクターが存在しないので、世界が薄っぺらく感じられてしまう)。
☆象のダンス 魚住直子 講談社
15才の少女の物語。タイの少女との出会いがあったりする。
よくある「不幸で繊細」な少女の話だなあと思ったんだけど…。
学生や大人のせりふが読んでいて、リアルじゃなくてはずかしかった。
手おいの獣のような女の子が、自分の属する世界の人以外の誰か(心を病んだ人だの、一人暮らしの老人だの、外国人だの)にであって、いやされていくパターンの物語は、もういらないかなあという気もする。
もっというと、そういう話を描くのは、作家の側で、異界の住人との出会いでもなければ人は救われない=傷ついた子どもはふつうの暮らしの中や日常にとどまったままでは救われない、というあきらめや絶望をもっているからのような気がして、背中が薄ら寒くなってくるのである。
☆DIVE!! 森絵都 講談社
飛び込みにかける中学生の物語。飛び込み版「エースをねらえ!」という感じ。
自分を平凡だと思っていた主人公が、天才コーチにみいだされ…というお話。
体言止めの多い、てきぱきした視覚的な文体は、イメージ豊かだけれど、ちょっとだけどこか昔の少女小説風でもある。テレビドラマっぽくもある。
でも、さわやかな本だ。無理をしていない感じがした。まずは順当なシリーズ滑りだし。
☆12才たちの伝説 後藤竜二 新日本出版社
学級崩壊から復活して行くある学級の物語。
いろんな子どもたちの視点から、物語が語られて行く。
魅力的なキャラクター、スリリングな展開。先が気になるこれも大家の作品。
P180〜
「(人間て、軽い気分で、こんなに残酷になれるんだな)
と、絶望的な気分になっていました。だれもが敵に見えて、学校中が地獄みたいに思えて、つらかったんです。
(こんな世の中、みんな、なんで生きてるんだろう?)
いつもふしぎに思っています。いまも、わかりません。
だけど、だれかが、たまに、「おはよう」とか「バイバイ」とか、にこっとしてくれることがあると、それだけで、ほんとにうれしくなってしまうんです。信じてもらえないかもしれないけど、そういう一言やかすかな笑顔で生きのびてる人間もいるんです」
この言葉には、すごくリアリティーを感じた。
つまりは私も、こういうこと考えて生きている子どもだったからなんだけど、ほかにもこういう子どもはいると思うのだ。現在も過去も、そして未来もね。
ラストシーンは、うるっときた。
一つ惜しかったのは、女教師のキャラクターの内面がもっと知りたかったということ。
もう少し、彼女がどんな人間なのか、想像するためのヒントがほしかったなあ。
☆魔女の宅急便その3 角野栄子 福音館
ものすごく長く感じた。人生観、世界観とそりが合わなかったからだろうか?
キキが好きになれなかったのは、私が恋愛至上主義の人ではないからかも知れない。
なんていうのかなあ、キキみたいに魔法の力があれば、もっと世のため人のために使うべきだとか思ってしまいながら読んでしまうので。
(追記。こういう私が描くから、ルルーはああいう話になるんだろうなあ)。
ところどころ、さすがにセンスがいいなあと思ったりもするのだけれど…。
地名人名の付け方に統一感がないところが、今回も気になった。
昔の無国籍童話みたいなネーミングなので…。
でも、気にならない人は気にならないんだろうなあ。メルヘンだと思って読めば、抵抗なく読めるのかも知れない。
佐竹美保の挿し絵はよかった。毎度、挿し絵画家が変わる不思議な本。
4巻の挿し絵は誰になるんだろう?<また佐竹さんかな?
☆怪傑黒うさぎ・闇にひそむ鬼 杉山亮 講談社青い鳥文庫
昔懐かしい時代劇ロマン。謎の美少年大道芸人の正体は?という物語。
挿し絵が品がよく、こびてなくて、かつかわいくていい感じ。
琉球の棒術を駆使する主人公の少年がかっこいい。手塚治虫の漫画みたいだ。
たちまわりがスリリングで、読んでいて快感だった。
☆理央の科学捜査ファイル・静寂の森 夏緑 富士見ミステリー文庫
中学生の少女を主人公にした読み応えのあるミステリー。
作者は、漫画「少年探偵彼方」シリーズの原作者。「ゴルゴ13」のシナリオライターのひとりでもあり、その上、現役の科学者でもある作家。だから、トリックと科学知識は一流な感じ。
いい話なのである。人の生命の意味について考えさせる物語。
こういう話は、ふだんからそのことについて実際に思いをめぐらせている作家でなければ書けないだろうと思うのだ。
P247〜
「後ろむきに山をのぼっていくと、いままで歩いてきた道が見える。
道は、目的地に到達するためだけに、存在するのではない。それは、歩くためにこそ存在するのだ。
道ばたの草や花、すれちがうさまざまな人々、木々や風のかおり、そのすべてをたのしみながら歩いていくことにこそ、道の存在する意義がある。
そしてふりかえったとき、そこにはいままで歩いてきた道が見える。一歩一歩、自分の足でつみかさねてきた「過去」が、たしかにそこにある。
どこかに行くためでも、なにかをするためでもない。ひたすらに歩き、ふりかえって見たその美しい風景こそが、生きている意味なのかもしれない。」
児童書のハードカバーで読みたかったなあ。
きわめてテーマ性…というより、メッセージ色の強い作品だから、「人がいきること」の意味を見いだせずに迷っている子たちに、「こんな本もあるよ」と、そっと差し出してみたい本だ。
同時に、こんな物語こそ、児童書ジャンルでもっと描かれてしかるべきだと思うのだ。
☆リングテイル・勝ち戦の君 円山夢久 電撃文庫
中世ヨーロッパ風異世界の都市<九都市>に暮らす、魔道師見習いの少女の物語。
いにしえの都市に伝わる王国の無敵の守護者<勝ち戦の君>にまつわる謎をめぐって、さまざまな事件が起きる。
ヒロインの少女が魔道師見習いになるまでの過去が語られていないのは惜しいところだが(やはり知りたいところである。少なくとも家族構成。その職種をめざした理由とか。この本はシリーズがその後つづいているので、その後、そのあたりのことは書かれたのかもしれないけれど)、ところどころにちりばめられた謎が、物語の進行とともに一気に結びつき、ときあかされていくのを読んでいくのは、快感である。
ページをめくる手がとまらなくなっていくのである。
主人公に訪れる二度の哀切な別れは、本を閉じたあとも、いつまでも読者の心に悲しい響きを残すだろうと思う。
以上30冊でした。
一気に書き写したので、誤変換があるだろうな(^^;)。
惜しかったのは、読みたくても手に入らない本があったということです。
私は長崎在住ですので、書店の数にも限りがあり、市立図書館はなく、また、近隣に大きな図書館も存在していません。そういう状態だと、00年年末にでたばかりの本の中で一部のものが、論文執筆の期限ぎりぎりの二月中旬まで粘っても、手に入らなかったのです。
そのあたりのことが、ちょっと惜しまれます。
(ネットで取り寄せるにも、本の購入費は自費なので、限りがあるわけで…)。
おまけ
メモの余白に描いていた言葉集。
「ROYさんが掲示板に書いていてくれた、「読者の側にもボーダーレスが進んでいる」という言葉を、なんとか引用したい」
「作家は仕事がルーティンワークになってはいけないなあ」
「新しい作家と古いタイプの童話作家のあいだに、分離が起きているようだ」
「国産FTは異世界を描くのが下手。「光車よ、まわれ!」の異世界のリアリティは、子供心に怖ろしかったが、あれとても、今思うと、詩人の卓抜な文章力で描写された美しい絵画を見ているような感じだったのだと思う。立体的な世界ではあり得ない」
「物語は人物を書くものであるべきだろう。どんな重要なテーマについて語るときも。
とくに、児童書の場合には」
「インターネット関連の小道具がでてくる話が増えてきた」
「ハイブリッド化」
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